更新日:2008年5月09日



英米のエンタメ界を席巻している映画

カテゴリ:ロンドン  2006年11月06日

  マジメなトピックについて書いたばかりですが、先々週イギリスで、先週アメリカで封切られた映画『Cultural Learnings of America for Make Benefit Glorious Nation of Kazakhstan(ボラット、栄光のカザフスタンのためにアメリカ文化を学ぶ)』が英・米・カザフスタンの3ヵ国で話題沸騰のようなので、ちょっとご紹介します。

  サーシャ・バロン・コーエンというイギリスの人気コメディアン扮する、カザフスタン人記者ボラットがアメリカを訪れて文化についてレポートする珍道中……という設定なのだけれど、一部紹介されている動画などを見る限り、このボラットがもう強烈にヤバい。人種差別主義者で性差別主義者で反ユダヤで、絵に描いたようにポリティカリー・インコレクト(反倫理的)。そして趣味もめちゃくちゃ悪い……。


「ボラット氏」はちゃんと自分のサイトも持っている。動画もあり。カザフスタンの人々に失礼なのを承知で言えば、たしかに、中央アジアあたりってこういうサイトがありそう……と思わせてしまうところが、そしてまた自分のそういう偏見に気づかされてしまうところが、本当になんというか、痛いというか痒いというか、くーっ、たまらないのです。●Official Borat Homesite >

  「えっ、あなたの国では女性は奴隷ではないのですか」とか、「私たちの国では犬を撃つのが国民的趣味」「私の11歳の息子に最近生まれた子どもは、マドンナっていう女装の歌手に売ろうと思っている」「私の故郷では障害者をいじめて遊ぶのが普通」とか、たどたどしい英語でしゃぁしゃぁとまくしたてる。エッジーな笑いが好きな人には大ウケのようで、CNNの記者は「笑いすぎて健康を害する人もいるかも。注意マークをつけたほうがいい」とまで賞賛。CNNやCBSのニュースやトークショーにもボラットとして登場してここでも差別ネタのオンパレードをしてます。

  このバロン・コーエン、出世作はテレビシリーズの『Ali G(アリ G)』。これまた倫理的に大問題で、ロンドン郊外の低所得者エリアに住むちょっと頭の弱いラッパー「アリ G」が、政治家や宗教指導者、CIA長官などをたずねて(相手には若者向けの番組の収録と嘘をついている)、「とか言っちゃって、マリアとヨゼフはヤッちゃってたんでしょ」「袖の下もらってるくせにィ」的なことを面と向かって聞いて相手の狼狽振りを楽しむという仕立て。くだらない質問の間に、ときどき誰もが聞きたいけれど聞けないようなことをアホの振りで聞くから痛快だったりするのです。微妙なユダヤ人ネタも、彼自身がユダヤ人で、ケンブリッジ大でユダヤ人の人権と歴史について勉強したという背景があってかろうじてクリア。

  ところで、いきなり笑いのネタとして世界のコメディ舞台に引っ張り出されたカザフスタン(バロン・コーエンとカザフスタンは何の関係もない)は、動揺してはじめは批判声明を出していたけれど、最近「“ボラット氏”をわが国に招待したい。わが国に差別がないことを見てほしい」と正式に招聘。観光客が増えるのではないかと好意的な意見も出ているようだけれど、いまのところこの映画の国内上映は禁止とか。


映画のオフィシャルサイト入り口。これも入るとカザフスタン政府のサイトのような作り。ボラット氏のサイトのほうだったか、怒ったカザフスタン政府は「.kz」ドメインをバロン・コーエンに使用しないように申し入れるという顛末もあったとか。●Cultural Learnings of America for Make Benefit Glorious Nation of Kazakhstan >

  日本で公開の予定があるのかまだわかりませんが、機会があったらぜひお試しください。腹が立っても私は責任とりませんが。YouTubeで「Borat」と検索すると大量に出てきます。


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2006年11月13日 20:06


話題沸騰のカザフスタンに住んでいます。
ちょうどカザフ人の友人がロンドンに住んでいて、カザフ人だと言うと大笑いされると言ってこぼしていました。これまで日本でもアメリカでも「カザフにいる」って言うと「どこ?」って聞かれ「旧ソ連」と答えると「ああ、ロシアね」と勝手に納得されていたことを考えると、どんな形であれ認知度が高まるのはいいことかな、とも思いますが当事者たちにとっては笑うに笑えないことなんだと思います(少しは痛いところをつかれている、っていうのもあるので)。

あと、細かいことですが、使用禁止になったのは「.kz」ドメインで「.kv」ではありません。こういう統制が簡単にできちゃうところがまあカザフなんですね。

投稿者 Naomachka : 2006年11月07日 14:30

Naomachkaさま

おお、カザフから! ありがとうございます。
そうですね、当人としてはやっぱり多かれ少なかれ痛いのだろうなと同情します。日本だって、『Lost in Translation』程度のカリカチュアライズでも痛いと感じる人は少なくなかったですし。今回はあんなもんじゃないですし。
でも、勿論、観ているほうも差し引いて観ているし、自分の無知にも気づかされるし、なかなか高度な知的覚醒を求められるジョークだと思います。とくにアメリカ人もまた痛がっていると思います。
ドメインのつづり間違い、ご指摘ありがとうございました! 修正しておきます(>_<)
ところで、「jagshemash!」ってどういう意味ですか?そもそもカザフ語ですか?

アオキ

投稿者 アオキ : 2006年11月07日 21:27

http://en.wikipedia.org/wiki/Borat#Lingo
wikipediaによりますと、jagshemashはポーランド語だそうです。カザフの言葉など知る由もない相手に、ポーランド語やヘブライ語を連発してたんですね。
今度、コーエン氏はナスカー(カーレース)のドライバーの役で映画に出るらしいですよ。しかも、フランス人でゲイという設定だそうです。ものすごいことになりそうですね(笑)。

投稿者 カブ : 2006年11月14日 09:19

こんにちは! 私はカザフスタンを中心とする中央アジアを研究しています。話題のBorat、映画は見ていないのですが、YouTubeで見る限りコーエン氏のギャグは面白いとは思えなかったです。笑いのツボが違うのかもしれませんね。

確かにBoratのおかげでカザフスタンに関心を持つ人が増えるかもしれませんが、まだまだ認知度が低く、ただでさえ偏見をもたれがちな国・地域をここまで低俗な笑いの対象にするというのは、私はフェアじゃないと思います。ある対象についてのジョークが面白い(あるいは真の意味でイタイ)のは、それをネタにする側が相手をよく研究しているから。Boratにはそれがまったくない。この映画は実は外国に無知なアメリカ人を笑っているのだという見方もあり、そうであるなら「カザフスタン」はただの記号なのかもしれません。

アメリカの中央アジア研究者のブログ
http://www.roberts-report.blogspot.com/
にBoratの分析がいくつか載っています(最新は11月3日、Borat and the Kazakhstan National Anthem; Kazakhstan, Borat, and US Policy)。「国歌」は実際に聞けますよ。もちろんニセモノですけど。

投稿者 岡 奈津子 : 2006年11月17日 01:37

カブさん

Wikiのリンク見ました。そうだったんですか……ポーランド語にヘブライとは! それまた一本とられました。来月観に行く予定なのですが、楽しみです。

岡さん

笑いのツボは人によって違いますから、仕方ないと思います。
バロン・コーエンが珍しく素に戻ってこの映画についてコメントをした記事がありましたので、ぜひごらんください。たぶん岡さんが疑問に思われたことにそのまま率直に答えているのではないかと思います。ひとつ言えるのは、笑っている対象はカザフスタンのようで、カザフスタンではないと私は思います(主に観客自身が内面化している偏見、そしてアメリカでしょう)。カザフスタンもボラットも、気づいてもらうための道具でしかないと言っています。彼自身も少し言っているように、こうやって解説しちゃうと面白くなくなってきますけど(>_<)
http://news.independent.co.uk/uk/this_britain/article1990387.ece
カザフスタン駐英大使も「じつはちょっと面白いと思った」と言っていたようで。

日本にも来ることを祈りつつ……でも笑いのツボはたしかにかなり違うので、リスキーかもしれませんね……。

投稿者 アオキ : 2006年11月17日 21:10

青木さま

記事をお教えくださってありがとうございます。興味深く拝読しました。

カザフスタン駐英大使の記事はここ↓に出ていますが、彼の主張は「ちょっとは面白かった」に続く「でも」の後が重要なのです。
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,1072-2436462.html

認知度の低い国をわざと選んで、観客の偏見や無知を暴き出す、というコーエン氏の意図は理解できなくもありません。でもカザフスタンという国は実在し、そこには人間が住んでいて、豊かな歴史と文化が存在します。多くの人にとっては未知の国であっても、当のカザフスタンの人たちにとっては決してそうではない。そのことを彼はどう考えるのか。特定の文化的背景を抜きにした笑いのネタにするだけが目的なら、架空の国家でもよかったのではないかと思います。

せっかくカザフスタンから招待されていることだし、どうせなら実際に訪問して、かの地の権威主義的な体制(ちなみに招待したのは大統領の娘婿です)をちゃかすくらいの度量を見せてほしいですね。

投稿者 岡 奈津子 : 2006年11月18日 01:30

今住んでいるNYでこの映画を見ました。NY Timesでも何度も肯定的に取り上げられていて、たしかに頭のいいコメディアンだと思いました。個人的には、田舎のスタジアムでイラク戦争についてのコメントをするところにはまりました。

私も、彼が笑っている対象はカザフスタンではないと思いますが、とはいえカザフスタン関係者が嫌な気持ちになるのもよく分かります。Lost in Translation でも同じ面があったように思います。あの映画も日本人が英語を話さないこととか奇異なコールガールやストリップバーは全くテーマとは異なりますが、不快に思った日本人は少なくないのではないでしょうか。

ちなみに、私自身は、もっと低レベルな部分、裸の下ネタのところで大いに気分を害しました。周りのアメリカ人は男女問わず大うけでしたが。。。

投稿者 aimee : 2006年11月18日 22:34




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青木陽子
Cafeglobe
ファウンダー・取締役
女性誌編集者時代、自分を含めまわりの女性たちが本当に読みたい媒体がないことに気づき、1999年に現社長の矢野とともにCafeglobeを立ち上げ、6年間編集長をつとめる。現在、パートナーの暮らすロンドンと東京の二重生活を実践中。
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