更新日:2008年5月09日



有機農業・自給自足の共同体にお邪魔してきました その1

カテゴリ:ロンドン  2006年3月16日

   友人のスティーブは、年齢を訊ねたことはないけれど、30過ぎの息子がいるからたぶん60ちょっと手前くらい。筋金入りのインテリヒッピーで、今でも小さなデイパック1つで1ヶ月くらいの貧乏旅行に出てしまう刺激的なおじさんだ。

   彼は70年代、当時の左翼仲間たちが人間と環境にやさしい暮らしのあり方を考え、有機農業・自給自足を目指して28ヘクタールの農地がついた古い修道院を購入して始めたこの共同体に参加した。以来30年弱、ゆっくりとメンバーの入れ替わりはありつつ、ずっとここで20前後の世帯が一緒に暮らしている。しばらく前のことだけれど、「そういう暮らしに興味があるなら遊びに来なさい」と誘われ、寝袋持参でお邪魔した。


ほんの40年ほど前くらいまでは数十人の修道女たちが暮らしていたという建物と敷地に約20世帯が暮らし、畑を耕したりチーズを作ったり、外に普通に通勤したりしている。

   ロンドンからクルマで1時間少々走った小さな町のそばに修道院はあった。晩秋の早い夜、とっぷり暮れた中、門を抜けて敷地に入る。ヘッドライトの中にほったらかしの三輪車、スケートボード。そして「Drive slowly, free range children.(徐行運転。放し飼いの子どもあり)」の手書き看板。


敷地を横切る私道には「Drive slowly, free range children.(徐行運転。放し飼いの子どもあり)」の看板。


食事の合図の鐘を鳴らすスティーブ。ブレアとブッシュのイラク侵攻に激怒、米英軍がイラクを離れるまで髭は剃らない!と決めたらこんなに伸びてしまった。

   ちょうど夕食時だったので、いきなりご相伴にあずかることに。鐘楼の鐘が鳴ると天井の高い食堂におなかをすかせた住人たちが続々と集まってくる。最初は挨拶したり握手したりしていたけれど、あまりに人数が多いので、途中から全員に挨拶するのはあきらめて、ニコニコとだけしておいた。今は大人45人、子ども15人が暮らしているという。

   世の中にはさまざまな目的のさまざまなコミューン(共同体)があるけれど、ここはかなり現実路線、平たく言えば最も「怖くない」部類に入ると思う。20家族が一緒に暮らすといっても、建物の中は日本のマンションのように区切られていて、世帯ごとの玄関がある。仕事を聞くと、大学講師をしている人、近所のスーパーのレジ係をしている人、年金生活の人などなど。子どもたちは地元の学校に通っているし、閉ざされたユートピアを目指しているわけではない。ただ、食事は基本的にみんな一緒にとり、大人は週9時間以上掃除や炊事などコミュニティのために働かなければいけない。そのほかに農作業の担当もある。SOHOで小さなNGOを営むスティーブの担当は、タマネギ畑約1アール。


修道院時代は集会場だったという大きな食堂兼キッチン。外から帰ってきた人はみんなここを通り、食事の準備をしている人やお茶を飲みながら新聞を読んでいる人たちとお喋りしたり、あとで羊をあっちの牧草地に移そうなどと相談したり。突っ立っていると、「あなた動物は好き? 牛の乳搾りやってみる?」と女性に声をかけられ、私は長靴を履いてにわかハイジに。


食事は基本的にベジタリアン。日曜日だけ、ここで育った豚を潰した自家製ベーコンなど肉料理が1~2品出るけれど、手をつける人は少ない。それにしても、食材の半分以上は自分たちで育てたものだから、食費は1食90円!

   70年代のスタート当初は、社会主義的理想も高く、できるだけ自給自足、クルマは持たない、電話も全員に1回線だけ、テレビなんてダメダメ……という方針だったとか。でも、みんなで話し合いながら少しずつ、電話を個別に引いたり、テレビを持ったりするのもいいことにルールを変えてきた。「今ではみんな部屋でインターネットもしてるしね。ごくフツーだよ。クルマの個人所有だけは僕は賛成じゃないけれど……」と渋い顔のスティーブ。

   でも私はもうずーっと、軽い興奮状態になっていた。現代社会に妥協しつつ、彼らが実現してみせている暮らしは、それでも私たちがブチ当たっている問題の多くに答えを出せているからだ。いや、むしろ妥協しているからちょうどいいくらい。食の問題、環境問題、ワーク・ライフ・バランス、少子化……ウウウウ! これは羨ましい!

   ……と、突然ですがそろそろ長くなってきたので、この続きは次回にします。来週をどうぞお楽しみに!


農業などのお手伝いを条件に、数週間ほど無料で滞在させてもらうこともできるから、いつも数人の学生が転がり込んでいる。彼らが泊まるのは、長い廊下に沿って並ぶ、修道女たちが修行をしたお祈りのための小部屋。


ここが修道院になる前、上流階級のお屋敷だったときのバンケット・ルーム。出窓がいくつもあって、ジョン・レノンのあれは「Imagine」でしたっけ、ヨーコと一緒に白装束のあの部屋を思い出す。2号前のこのコラムでご覧に入れた青い図書室はこのバンケットルームのすぐ隣。

●有機農業・自給自足の共同体にお邪魔してきました その2


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素敵なコミュニティーですね。 
おっしゃるように、妥協しているところが魅力です。
以前、イギリス北部のコミュニティーの話を聞いたことがあり、そこは最長3年までしか滞在させない方針で、出た後は社会で普通に働くことが条件だそうです。

社会と隔絶したようなコミュニティーもあるようですが、信念を持ちながら、現代社会に溶け込んで生活をしているのが良いですね。

投稿者 ヤスダトモコ : 2006年03月16日 00:57

日本では共同生活コミュニティ=社会と隔絶していたりカルト的な団体、といったイメージを持つ人が圧倒的に多いと思います。

環境や人権など、自分にとってすぐに利益にならない活動に対して、人々はうさんくさい目で見てしまう風潮があるような気もしますし、活動を行う側も、社会とのバランスが取れる倫理観や知的さなど、色々なことが要求されてハードルが高いような気がします。

でもこの記事を読んで素直に、楽しそうで素敵だなと感じました。
あまり小難しく考えず、自分にとって心地いい生活を目指す気持ちが大事なのかもしれません。

投稿者 asha : 2006年03月31日 03:10

日本にはこのようなコミニティ-はないんですか?

投稿者 : 2006年08月17日 15:50

>匿名の方

ここまでの規模・歴史のものはないかもしれませんが、近いものはあると聞いています。最近、若い人たちで作り上げようというムーブメントもあちこちで起きているらしいです。増えていけば、面白いことになりそうですよね。

投稿者 Cafeglobeアオキ : 2006年08月18日 00:17




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青木陽子
Cafeglobe
ファウンダー・取締役
女性誌編集者時代、自分を含めまわりの女性たちが本当に読みたい媒体がないことに気づき、1999年に現社長の矢野とともにCafeglobeを立ち上げ、6年間編集長をつとめる。現在、パートナーの暮らすロンドンと東京の二重生活を実践中。
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illustration / Nakagawa Isami

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