更新日:2008年6月24日

バスク地方は、フランス南西部~スペイン北部に広がる緑と水のゆたかな土地。お菓子とおいしいものが大好きなマテスク里佐さんのオーブンからは、今日も甘くて香ばしいいい匂いが立ち上っています。里佐さんがバスクで出会い・学んだお菓子やお料理、そして人々の暮らしの様子について、レシピとともにお届けします。

文=マテスク里佐
   

テラスランチの季節です

   レストランに予約の電話を入れると、「テラス席をご希望ですか?」と聞かれる季節になりました。こうなると、いよいよ初夏の到来! おいしいものをいただくという楽しみに加え、「気持ちの良いロケーションで」という付加価値がつくシーズンの始まりです。

   日によっては私にはまだちょっと涼しすぎたりするのですが(ウールのストールやカーディガンなどは欠かさず持参!)、眺めの良いテラス席、うっとりするような場所でのお食事は季節限定のお楽しみです。


以前「アドレス帳」の中でもご紹介した、山バスクにあるレストラン「Arse」にて。左に写っている、こんもりと葉を広げたプラタナスの木々の下にテーブルが並んでます。数多あるレストランのテラス席の中でもここは抜群に素敵なロケーション! 夏を迎えると、足繁く訪れてます。

   バスクは海と山、何をするにしてもこの2つのチョイス、2つの楽しみ方があるのが良いところ。ドライブするにしても、景色に浸るにしても、夏休み気分を味わうにしても、そしてテラスごはんを楽しむにしても。

   海辺のレストランのテラス席は、白い大きなパラソルの下で大西洋の眺めと波の音を聞きながら。言うまでもなく、海の幸をいただくには最高のロケーションです。舌平目のムニエルなんかを食べたあと、デザートにはアイスクリームやソルベをオーダーしたくなるような……。

   山のレストランのテラス席ならば、プラタナスの木陰の下が定番。そよそよと葉っぱが揺れる音を聞き、木漏れ日の下でワインを飲んでると、とても優雅でおだやかな気分になれるのです。お料理は、川魚料理や仔羊料理。デザートには、夏の果物のタルトなんかがお似合いです。


仔羊の背肉のロースト。にんじんのオレンジと赤ピーマンの赤、野菜のピュレも色鮮やかに夏らしい組み合わせになってます。

   どちらにしても、自然の音を聞きながら自然光のもとで食事できることが何よりの魅力です。自然光の下だと、お料理もいちばんおいしそうに見えますし。

   こんな風に屋外ごはんのロケーションに関しては、バスクでかなり贅沢環境に慣れてしまってるため、パリの街中のオープンカフェに座るのはちょっと抵抗を感じてしまう私。排気ガスと粉塵と紫外線をめいっぱい吸収している気分になります(実際、持病のアレルギー性鼻炎が大悪化してしまう)! それでもやっぱりパリの夏も大好きなんですけどね……。

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スパイスたっぷり! バスクの「薬草リキュール」

   眩しいほど色あざやかなグリーンとイエローのボトル。「グリーンだからミント味かな?黄色はポワールのリキュール?」なんて単純に色で判断して飲んでみると、想像していた味とのあまりの違いにびっくり仰天してしまうようなお酒です。

   バスクの人に愛されている、バスク生まれの“薬草リキュール”です。カフェやレストランのバー、よそのお宅のリキュール棚にこのボトルが置いてあると、ほかのシックな色調のボトルとは異色な存在感にぱっと目が留まります。

    その名は『Izarra』、バスク語で「星」の意味。はるか遠く昔のバスクの人々には、もちろん食後酒としてではなく、薬として飲まれていたアルコールです。


薬草エキスたっぷりの蒸留酒に、アジアやオリエントのさまざまなスパイスで調香されています。基本スパイスはカルダモン、ナツメグ、サフラン、シナモン、コリアンダー。グリーンはさらに、ミント、胡椒、アンゼリカが加えられた、辛口なお味。イエローは、ハッカ、ビターアーモンド、アニスの香りが加えられ、蜂蜜入りの甘口リキュールです。

   時代とともに廃れてしまったのか、それとも医学の発展とともに飲まれなくなってしまったからか、いつしか“処方箋=ルセット”も伝承されなくなり、この薬はやがてバスクから消え去りました。

   時を経て、19世紀終わり。ひとりの植物学者がたまたま文献の中にルセットを発見、幻のリキュールを蘇らせることに成功します。一度は消滅しかけた薬が20世紀に再びこうして、“食後酒”として返り咲きました。

   以来この学者の子孫ファミリーによってのみ生産販売されてる、専売特許的なリキュールです。もちろん銘柄はひとつのみ。薬草のルセットは門外不出とされている、ミステリアスなお酒でもあります。

   明らかなのは、ピレネーの山で採れる40種近くもの薬草エキスが調合されているということ。“薬草エキス”って言葉で私の脳裡に浮かんだのは『養命酒』!これはまさにバスクの養命酒と呼ぶのが相応しい?

   今では、食後酒としてバスクの人々に愛されてます。こってりしたバスク料理をたっぷり食した後でも、これを飲めば胃もたれとは無縁なのかも?

   だとしたら何やらカラダに良さそうなお酒であることは確かなのですが……。ガトーバスクやガレット・デ・ロアなどに、『Izarra』を入れてるお菓子屋さんが存在するのを知ったときは驚愕でした! 『養命酒』をお菓子に入れてしまうとは……。バスクのお料理・お菓子、だいたいのものはおいしくいただけますが、こういうジャンルになると私には付いていけない味覚世界。こんなとき、バスクがとても異国に思えたりします。

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『黒さくらんぼのガトーバスク』レシピ後編

   「黒さくらんぼのガトーバスク」レシピ後編。ジャムが完成したら、あとはいよいよ生地づくりです。

    前々回の記事でも触れたように、パート・バスクは泡立てず、ザクっと混ぜておしまいにするのがコツ。バスクの職人さんのように大きくてパワフルな手があればいちばんなのですが、わたしは木べらだけで作ってます。

   ちょっと変わってるのは、アーモンドパウダーの下準備。そのまま入れず、あらかじめ軽くローストしてから使います。これはバスクとは全く関係なく、日本の恩師が愛用されてた手法で今やわたしのお菓子つくりにもすっかり定着しているやり方。アーモンドの香ばしさがより際立ち、ただのしっとり感とは一味違う食感を生み出します。


義両親のパリの家のキッチンにて。開放的で気持ち良いキッチンなので(使い勝手はまあまあなのですが!)、ここでもお菓子つくりを楽しんでます。ガトーバスクはパリの人にとても喜んでもらえるので、実はパリ滞在中にいちばん作るお菓子。さくらんぼジャムのストックの半分はこの家に置かせてもらってます!

●「黒さくらんぼのガトーバスク」作り方(8cm丸型12個分)

材料
バター……120g
グラニュー糖……70g
塩……2つまみ
卵黄……3個
ラム酒(お好みで)……大さじ1
薄力粉……50g
強力粉……50g
ベーキングパウダー……小さじ1/2
アーモンドパウダー……60g
黒さくらんぼジャム……適量


1.アーモンドパウダーを170℃のオーブンで5~7分ほど空焼きする(使うまでに冷ましておく)。ほんのり黄な粉色がつくくらいまで。余分な水分が抜けてサラりとして、アーモンドの香ばしい匂いがたちます。


2.室温に戻しておいたバターにグラニュー糖と塩を入れ、木べらですり混ぜる。

3.卵黄を加え、同様に混ぜる。
4.ふるっておいた粉とベーキングパウダーを加え、粉気が見えなくなるまで混ぜ合わせる。
5.1のアーモンドパウダーを加え、ざっと混ぜあわせる。


6.型にアルミ箔または紙の型を敷く。生地を平口金をつけた絞り袋に入れ、底面を埋めるように絞り出す。その上に、黒さくらんぼジャムを小さじ3杯ほどづつおき、再度生地を絞ってフタをする。

7.このまま一晩冷蔵庫で休ませる。


8.表面に溶き卵(分量外)を刷毛でぬり、160℃のオーブンで約30分焼く。


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『黒さくらんぼのガトーバスク』レシピ前編

   私のガトーバスク作りは、まずはジャムを煮るところから始まります。

   レシピはこちらからどうぞ。初夏の甘い保存食つくりその1 さくらんぼの実ごたえジャム>>

   パチンパチンと一粒づつ種を抜くのは、なかなか根気のいる作業です。でも黒々と光輝くジャムが出来上がったときの嬉しさは相当なもの! そしてこれを使ったお菓子をつくるときの満足感もひとしおです。みなさまもおいしいさくらんぼを見つけたら、ぜひガンバってください……これでようやく、ガトーバスクづくりのスタンバイ完了です!


お店のジャムより濃度は薄めです。シロップだけ使うときもあれば、実だけ使う場合も。「どうやって使いまわそう?」と考えることこそ、お菓子つくりの原動力ですね。さくらんぼのお菓子レパートリーも少しづつ増加中。

    バスクのそこら中に黒さくらんぼジャムは売られているのですが、手前味噌ならぬ手前ジャム! 自分のガトーバスクには自分で煮たジャムのがしっくり来ます。

   バスクのジャムのほとんどは“ピュレタイプ”なのですが、私は果実の粒がしっかり残るように煮上げた“プリザーブスタイル”で作っています。お菓子に2次利用することを考えると、粒の存在感があったほうが絶対においしい。そしてもちろん売られてるものより、甘さはうんと控えめ。ガトーバスク以外のお菓子やデザートにもばんばん活用します。


以前パリのフランス人友人にガトーバスクのレシピと一緒にお手製ジャムをプレゼントしたところ、かなり喜んでもらえました。ジャム作り好きな人と“ジャムの交換会”をしたことも。ほんと、フランス人とジャムの関係は濃密です。

    イッツァス村の黒さくらんぼは、フランスのジャム本に「伝説の黒さくらんぼ」と書かれているほど希少価値があります。ほかの地方のさくらんぼに比べて生産量が圧倒的に少ないため、そしてもちろんその独特の黒い色と芳香のため。

   収穫のほとんどはお菓子屋さんやジャムメーカーに消費されてしまうので、私みたいなイチ趣味人が大量に手に入れるのはなかなか大変なことなのです。で、こういう時こそ地元コネクション(?)をフルに使い、農家の人のお裾分けで大切に作ります。


農家の人から木箱単位で。

   フランスが、そしてバスク地方が1年のうちでも最も光り輝く季節である6月。そんな初夏の訪れを告げる果物、さくらんぼ。私がカスタードクリーム入りよりも『黒さくらんぼのガトーバスク』を好む理由は、季節感溢れるお菓子だからです。

   次回はいよいよ生地づくり、パート・バスクのご紹介です!


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マテスク里佐プロフィール

バックナンバー
テラスランチの季節です (6月24日)
スパイスたっぷり! バスクの「薬草リキュール」 (6月17日)
『黒さくらんぼのガトーバスク』レシピ後編 (6月10日)
『黒さくらんぼのガトーバスク』レシピ前編 (6月03日)


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