更新日:2008年5月27日

バスク地方は、フランス南西部~スペイン北部に広がる緑と水のゆたかな土地。お菓子とおいしいものが大好きなマテスク里佐さんのオーブンからは、今日も甘くて香ばしいいい匂いが立ち上っています。里佐さんがバスクで出会い・学んだお菓子やお料理、そして人々の暮らしの様子について、レシピとともにお届けします。

文=マテスク里佐
   

わたしのガトーバスク

   私がふだん作っているガトーバスクは、小さな型で焼き上げるプチ・ガトーバスクです。これは地元で気に入ってるお菓子屋さんで売られてるサイズを真似たもの。フォークではなく手でいただけるお饅頭サイズ(?)が手頃で気に入ってます。プレゼントや手土産にもしやすい点も◎。


こうして積み重ねると、ますます“お饅頭”らしい!?

   私は、タルトやガレットなどの焼き菓子のクルート(焼き色がついたハジっこ部分)がたまらなく好きです。子どもの頃は、タルトの端っこばかり食べて真中部分を残すという荒業をして、母親に怒られていたほど! 小さく焼き上げると、このクルート率が増えて「どこをかじってもクルート!」のおいしさです。

   フィリングには自家製の黒さくらんぼジャムを入れてます。クリームよりも甘酸っいジャムの味のほうが、はるかに自分好みだから。ジャムのストックさえあれば、生地をつくるだけなので気軽に楽しむことが出来ます。


このお菓子をつくるときのいちばん楽しい作業はコレ。黒さくらんぼジャムをスプーンで詰めていきます。

   そして、密かに大切にしてるのが粉選びです。地元の粉挽き屋さんの地粉を買い求めて作ってます。いまやフランスの田舎でもほとんど見ることがなくなってしまったという、昔ながらのムーラン(風車または水車)の粉挽き屋さん。ここバスクにはまだちゃんと残っています。

   私はふんわりしっとりさせたいお菓子にはフランス大手製粉メーカーの特選薄力粉を、ざっくり系の焼き菓子にはムーランの粉を愛用してます。市販の粉よりも灰分が高めなので、少しベージュ色がかった素朴な小麦粉の色。適度なコシ、そして何よりも挽きたてならではの風味の良さ! ガトーバスクのような焼き菓子を作ってこそ、その威力が発揮されます。


濃い目の焦げ色をつけるようにしっかり焼き上げたほうがおいしいお菓子。

   生地やフィリング、そして材料のこと……ここまで3回連続してガトーバスクについて語ってきました。そろそろみなさんのガトーバスク熱も盛り上がってくれていることを期待しつつ(?)次回からレシピのご紹介に入りたいと思います。お楽しみに!


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パート・バスク作りの秘訣とは?

   前回に引き続いて、バスク饅頭ならぬガトーバスクの話題。今回はパート・バスク(ガトーバスク生地のこと)についてです。

   まずはこちらのフォトをご覧あれ。以前にもご紹介したことのある“ガトーバスク祭り”でのデモンストレーションの模様です。ラガーマンとしても充分通用するような屈強で大きなカラダつきをしたパティシエたちが、その大きな手でガトーバスクを仕上げていく様子は圧巻です。


塩もぱらぱらと。


とにかく作業が早い!というのが第一印象。でも出来上がった生地はちゃんとツルンときれいにまとまってる!

   バター・砂糖・卵を練り混ぜる。それを粉類とザックリ押し混ぜるようにしてまとめます。使用道具は一切なし。3台分くらいの生地を作るのに、所要時間わずか3~4分ってところ。とにかく手のサイズ、手の力がケタ違いなのです。

   この“力強くざっくり”ってところがいちばんのポイント。これによってガトーバスク独特のザクっとした粉の風味が生きたおいしさが生まれます。

   これを泡立て器を使ってバターと卵に空気を含ませ、粉も几帳面に混ぜ込んだりしてしまうと、フンワリきめ細かいバター生地にはなるものの(ある意味こういう生地のほうが日本人好みであることは確かなのですが)、粉のインパクトは消え失せてガトーバスクらしくなくなります。


生地を麺棒で伸ばすのも瞬間芸。あれよあれよという間に出来上がっていきます。

   フランス語は全ての名詞が男性名詞と女性名詞に分かれてるのは、ご周知の通り。ということは、存在するすべてのお菓子にもしっかりと性別がついているってこと。シューは男性だし、ミルフィーユは女性、シャルロットは女性、タルトも女性、マカロンは男性……という具合に。

   ガトーバスクはもちろん男性名詞(ガトー自体が男性形なので)。“名は体を表す”のごとく、ガトーバスクは男性的に仕上げた方がおいしいし、サマになるお菓子です。生地は力強く男らしく、フィリングはたおやかなクリームやジャムで女らしく! お互いの良いところを引き立ててこそ、魅力的なお菓子になるのです。

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カスタードと黒さくらんぼジャム、2つの正統派フィリング

   そろそろサクランボの季節。ってことはそろそろガトーバスクも旬の時期を迎えますので、久々にガトーバスクの話題を! 今回は“フィリング”についてです。

   ガトーバスクは言わずと知れたバスクの郷土菓子です。フランスのお菓子の世界での立場を日本のものに例えるとしたら、「バスク饅頭」としてしまうのがいちばんしっくり来るのでは? っていうのが私の極論。もちろんベースは全く違いますが、皮で餡を包んだ素朴なお菓子という意味合いにおいて。

   日本各地でさまざまなお饅頭が作られているように、フランスにも皮のパートと餡のフィリングで出来たシンプルなお菓子はガトーバスク以外にもたくさんあります。


マルシェのガトーバスク・スタンドで。ご覧のように本場のガトーバスクは、背を低く平べったく仕上げることによって、生地よりもフィリングを楽しむような作りになっています。

   では「バスクのお饅頭」の特徴は何?って言うと、包んでいる餡の種類がはっきり限定されていること。バスクで実際に作られてるガトーバスクのフィリングは、「カスタードクリーム」か「イッツァス産黒さくらんぼジャム」の2種類のみ。「この2種類しか認めないからね!」という暗黙の了解みたいな空気が現地にはあります。

   日本でもガトーバスクを置いてるお店は結構ありますよね。私は日本帰国時は他に食べたいものがありすぎて、ガトーバスクを食べてるお腹の余裕なんて全くないのですが、「日本のパティスリーでは何のフィリングを入れているのかしら?」ということだけはとても興味があります。

   今回手元にある日本のお菓子本(いずれも有名パティシエやお菓子研究家の方々の本)をざっと見回したところ、7冊の本でガトーバスクが紹介されてました。そのうちカスタード派は2つ、あとは栗のペースト、ナッツ類、さくらんぼ以外の果物のジャムを使ったアレンジ版です。


地元のほとんどのお菓子屋さんでは自家製ジャムで作っています。ジャムも一緒に販売しているお店も多い。

   保守的なバスクの人がアレンジ版を見たら「これはガトーバスクじゃないわよ!」と小言を言ってきそう……。でもこれは他国の食文化を紹介しあうときはお互い様。作る人と食べる人がバスクの人ではなく日本の人なのだから、そっくり同じものをつくる必要もないし、自分達がおいしいって思う感覚で再現して当然だと思います(もちろん本場の味を知っておくことも大切だと思いますが)。

   かく言う私も拙著『甘い香りの幸せデザート』の中ではカスタードでもなく、黒さくらんぼジャムでもなく、「くるみといちじく」のアレンジ版でご紹介しました。

   これは私自身がカスタードよりも果物入りの方が好きだからと、「材料は日本で手に入りやすいもので」という編集者の方のアドバイスがあったから!

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追悼、おばあちゃんとお菓子の想い出

   この春ミモザの花が満開に咲きほこっていた日に、義祖母が亡くなりました。92歳でした。

   豪傑にしてチャーミング、健啖家の酒豪。90歳まで現役でキッチンに立っていた、根っからのお料理お菓子好き。フランスに到着後、夫に真っ先に紹介された人でした。


お元気な頃はおひとりで飛行機に乗って年に数度はバスクに遊びに来てくれました。これは私の両親の来仏に合わせて来てくださった時の思い出深いフォト。

   初対面の日パリのアパルトマンへ行くと、エレベーターを降りてすぐにお菓子の香りが……。家の扉はすでに開かれていて、モスグリーン色の眼をしてグリーンのブラウスをお召しのおばあちゃんが玄関で待ち構えてました。

   あまりの緊張でどんな風に初対面の挨拶をしたかの記憶はないのですが、家にあがると焼きたてのお菓子の香りでいっぱいだったことを覚えてます。その香りがどんなに私の緊張と不安を和ませてくれたことか!

   オレンジのババロアのシャルロット、ガトー・オ・ショコラ、そして小さなメレンゲの焼き菓子。3種類ものお菓子が用意されてました。小さなボウルには、ガトー・オ・ショコラに添えるためのホイップクリームもおいしそうに泡立てられていて! そして飲み物はコーヒーでもお茶でもなく、きりりと冷えたシャンパン。

   この出会いの日を皮切りに、お菓子を掛け橋に孫嫁として可愛がってもらいました。パリにいくと必ずアペリティフやお菓子の時間に招いていただいたし、レシピノートの写しっこをしたり、レッスンをしていただいたり。お菓子や料理(そしてお酒も)が大好き! 1つ共通の世界を持ってるだけで、世代や環境やコトバの壁を越えて親密度を増せたことが嬉しかったです。

   夫と3人でパリの星つきレストランへ出かけるという楽しい夜もありました。私でも苦しくなってしまうようなポーションのお料理をぺろりと召し上がる姿、シャンパンの豪快な飲みっぷり、思わず笑ってしまうユーモアある言動に、サービスの人が微笑ましいコメントを言ってきたほどです。


レシピが無形遺産だとしたら、こちらは有形遺産。カトラリーやプレート、そしてお茶やお菓子まわりの小道具たち。結婚記念日やクリスマスごとにご愛用の銀製品をひとつひとつ贈っていただきました。どれも大切な宝物。

   私の手元には頂いたたくさんのレシピノートや古いお菓子本が残りました。そして年季の入ったお菓子道具や古い銀製品の品々。これからもずっとずっと、お菓子をつくる度に、お菓子をいただく度にいろんな想い出がよみがえると思います。

おばあちゃんのお菓子とお菓子にまつわるエピソード

●おばあちゃんのお菓子「杏のカトルカール」>>
●おばあちゃんのお菓子「ガトー・オ・ショコラ」、1つのレシピで2つのお菓子に。>>
●只今じっくり解読中、おばあちゃんの古い料理本&大昔のレシピノート>>
●おばあちゃんの得意技、コーンスターチ使いのカトルカール>>
●おばあちゃんからの贈り物、銀のデザート・スプーン>>
●我が家に招いたお菓子講師とは? そう、あの方です>>
●お作法道具の仲間入り、おばあちゃんからの「銀のケーキサーバー」>>


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マテスク里佐プロフィール

バックナンバー
わたしのガトーバスク (5月27日)
パート・バスク作りの秘訣とは? (5月20日)
カスタードと黒さくらんぼジャム、2つの正統派フィリング (5月13日)
追悼、おばあちゃんとお菓子の想い出 (5月06日)


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